ページの本文へ

Hitachi

Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYO

特別対談 1

10月18日(木)13:30-14:45

持続可能な街づくり
〜居住と暮らしのイノベーション。その歴史と未来〜

特別対談写真

内藤 廣
建築家
東京大学名誉教授
【代表作品】
鳥羽市立海の博物館
静岡県草薙総合運動場体育館
富山県美術館

本郷 和人
歴史家
東京大学史料編纂所教授
【著書・連載記事】
『日本史のツボ』(2018)
連載「日本史ナナメ読み」

【モデレータ】
鮫嶋 茂稔
(株)日立製作所 研究開発グループ
テクノロジーイノベーション統括本部長
横浜研究所 所長

心のサステナビリティで
民の意思に基づく街づくり

対談に先立ち、モデレータを務める日立の鮫嶋が「人や街が歴史的にどのように発展し、この暮らしと街を持続させてきたのかを振り返り、未来への展望へとしたい」と挨拶し、お二人を紹介。「日立東大ラボ」について説明し、住民を基点とした居住からの変革、というハビタット・イノベーションの考え方についてお二人の意見を伺いました。

本郷氏は「今、多様性が注目されていますが、明治以来、日本人は一つの型にはめられて全員で努力をすることで国力を高めてきました。しかし、同時にそこにはある種の息苦しさのようなものがあり、イノベーションが起きにくい状況でした。正に今、日立のような企業がイノベーションを起こすサポートをしていると考えており、大変期待しています。」と答え、内藤氏は「非常に難しいテーマですが、歴史的な観点やこれまで日本がさまざまな変化にどのように対応してきたかという点から人間性や豊かさとは何かということを、問い直す時が来ているのではないでしょうか」と答えました。

特別対談写真
故石川栄耀氏の功績を紹介する内藤氏。

まず、内藤氏が「都市計画の父」と呼ばれる故石川栄耀氏を紹介。「石川氏は東京の戦災復興計画で知られていますが、英国から帰国後、都市計画はあくまでも手段であり、人々の団らんこそが目的であると気付き、後半生は盛り場の研究に没頭しました。私も石川氏に全く同感で、人が活き活きと活動していなければ何も意味がなく、災害が多い一方で、自然から多くの豊かさを得ているこの国においては、再生する力、すなわち心のサステナビリティが重要なのではないでしょうか。そしてそのようなソフト面をいかにサポートできるかがイノベーションの役目ではないでしょうか。」と説明しました。

さらに、「日本は戦後、空間価値を追い求め過ぎてきましたが、今の時代は確実に、人々がその場所でどういう時間を過ごしたかという、空間価値から時間価値へとシフトしつつあると思います。」と補足すると、本郷氏が「自宅ではスペースがなく寝袋で寝ていますが、天蓋付きのベッドで寝るよりも幸せだと感じています」と共感しました。

次に、本郷氏のプレゼンテーションでは、徳川家康から続く江戸の街づくりに触れました。明暦の大火後、防災対策のために火除け地として整備した地域に相撲・見世物小屋・歌舞伎座などが出来ることで、そこが新しい文化の発信地となり、多くの人が集う活気ある街づくりが行われたことを説明、「このように幕府からの一方通行ではなく、人々の自立的な街づくりの歴史を振り返りつつ、駅名を番号で表記する世界的な傾向を見ると、名前にこめられた伝統を忘れて利便性を追い求め、人間性というものが豊かに担保されなくなるのではないかと危惧しております。」と訴えました。

特別対談写真
江戸の街づくりについてプレゼンテーションする本郷氏。

特別対談写真
モデレータを務めた日立の鮫嶋。

「江戸の大火後の復興と同じく、関東大震災後の復興でも民の再生する力が原動力になりました」と内藤氏も同意、自分たちの地域は自分たちで作るという幕藩体制から、明治以降150年間続く中央集権体制の中で、地方から自立する意識を失わせてきた歴史に触れました。これに本郷氏が、「正に、人に内在する『自立する意識』を高めるという点に、AIやビッグデータの大きな出番があるのではないかと思います」と応じました。続けて「今こそ、東京に集中した人材を地方に振り分け、その地域に根付く伝統、歴史に目を向け、その中でAIを活用することでサステナブルな社会が出来るのではないかと思います」と付け加えました。内藤氏からは、地域再生のヒントとして、歴史、地理、先端技術などを包含した「地域学」の必要性が説かれ、「地域学を創設し、地域独自の事情や、どうやって災害などを克服してきたかなど知識を集約し、何かあったときのターミナルとするべきだと思います。それは、AIなどイノベーションが果たす役割の新しい形になると思います。」と述べました。AIなどの新しい技術に対する課題や期待について鮫嶋が質問すると、内藤氏は「医療など多くの分野に劇的な変化をもたらすことは間違いないです。しかしながら、そこにヒューマン・インターフェースとしてのデザインが必要です。」と答え、本郷氏も「人に優しいインターフェース、人に優しい技術革新に期待します」と答えました。

最後に、内藤氏は「災害など心配になることは多いですが、恐れることはありません。再生するエネルギーが文化の底にあれば、必ず乗り越えられます。」と期待を込め、本郷氏は「役に立たないと思われがちな歴史学も、今回の対談が、その役割を見直すきっかけとなり勇気づけられました」と感謝しました。