ページの本文へ

Hitachi

Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYO

特別講演

10月19日(金)9:30-10:30

Making the world a better place one nudge at a time
ひとつずつのナッジで、世界をより良い場所にする

特別講演写真

リチャード・セイラー
2017年ノーベル経済学賞受賞
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス教授

スラッジではなくナッジを
セイラー氏と読み解く行動経済学

講演のはじめにセイラー氏は、ハーバート・サイモンによる定義を引用し、「経済学」という言葉に、あえて「行動」という言葉を付け加える必要があるのかについて述べました。それは、現在の経済学がもともと、「人々は常に最適な判断を下し、自己の利益のみを追求。自分にとって何が一番良い判断なのかを常に理解して選択する」という理想的な人間の行動を前提としているためです。しかし、このような考えを持つホモ・エコノミカス(以下、エコンと呼称)という人間像は、あくまで経済学者が考え出した仮説であり、現実の人間(ホモ・サピエンス)とは乖離しているとセイラー氏は異議を唱えます。

次に、全ての人が常に合理的で良い判断ができるわけではない例として、「そのうち そのうち べんかいしながら 日がくれる」という相田みつをの言葉を紹介しながら、自身と歴史的な偉人を視覚的に比較したグラフを用いて、「大トロの最後の一切れを譲るなんて不可能」だとユーモアも交えながら解説しました。

また、米国のオバマ元大統領によるキューバとの国交正常化交渉が、キューバとは元々無関係であるはずの「キューバファンド」という名前の投資ファンドの値動きに影響を与えたことを例に、市場が必ずしも合理的に動くわけではないことを説明しました。

そして、経済学では人々の意思決定に無関係とされているものが、実は意思決定に深く関係しているということを説明するために「ナッジ(Nudge)」というコンセプトを紹介。
「ナッジとは、我々の経済的なインセンティブを変えることなく、又、強制的でもなく、我々の注目を惹き行動を変えさせることが出来るのです。」(セイラー氏)。

そして、ナッジの代表的な手法である、「選択アーキテクチャ」(人々に意思決定をさせる環境を作ること)について、インテリアデザインショップにおける色の選択方法や企業年金の加入率を上げた自動加入方式などの複数の例を使って解説しました。

特別講演写真
市場が必ずしも合理的ではないことを説明するセイラー氏。

その後、ナッジの善き例として、歩く人が周囲の景観を楽しむように誘導する仕掛けが施された日本の遊歩道や、階段を大きなピアノの鍵盤にすることで利用者に積極的に階段の利用を促したストックホルム駅の例を紹介。逆に、悪意のあるナッジ(以下、スラッジと表現)の例として、よくある「30日間無料トライアル」の落とし穴を紹介しました。

最後に結論としてセイラー氏は、「我々はエコンではなく人間である。市場は完璧に合理的なものではない。そして、選択アーキテクチャを使うことで、人々の生活を改善もできるが、それらを悪用し騙すこともできます。どうかスラッジをせずに、ナッジをしてください」と願いつつ、最後に「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」という相田みつをの言葉を観客へ贈り、講演を締めくくりました。