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Hitachi

Hitachi Social Innovation Forum 2017 TOKYO

講演3

11月2日(木)16:30-17:30

不確実性の高い世界でイノベーションを起こすには
正確性ではなく納得性が重要 

世界の経営学からみる日本企業
イノベーション創出への視座

入山 章栄
早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール 准教授

講演写真

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早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 入山氏

講演写真
イノベーションの理論について解説する入山氏

講演の冒頭、経営学の急速な国際標準化が進んでいることに触れ、入山氏は「本日ここで取り上げるイノベーションとは、有名企業の先進的な話だけでなく、身近な新規事業や新規案件、さらに身近な業務改善などに関するもので、とにかく少しでも良いから、企業・組織・ビジネスパーソンが何か新しいことをして会社が前に進むこと、それを全部ひっくるめてイノベーションだと考えていただきたいと思います」と挨拶し、講演が始まりました。
世界中の経営学者にとって、イノベーションは最も重要な研究テーマの1つであり、イノベーション理論の背景にあるのは認知科学・認知心理学であると説明し、3名の高名な経営学者を紹介しました。

次に、イノベーションの第一歩は、新しい知を生み出すことであり、新しい知というのは、既存知と別の既存知の新しい組み合わせであることをヨーゼフ・シュンペーターの言葉を引用し説明しました。
「しかし、人間の認知には限界があるので、目の前にあるものだけを組み合わせる傾向があります。なるべく遠くの知を幅広く探して、持ち帰ったものと今持っているものを、どんどん組み合わせてみることが重要です。これを『知の探索』と呼びます。そして、組み合わせの中で儲かりそうなものを、深掘りして収益化することも重要です。これを『知の深化』と呼びます」(入山氏)。
知の探索と知の深化がバランス良くできる企業がイノベーションを起こせる確率が高くなるが、企業や組織は知の深化に偏ってしまう傾向があると説明し、「知の探索をなおざりにしているとイノベーションが枯渇することになります。これを『コンピテンシー・トラップ』と呼びます」と続けました。

続いて、どうすれば知の探索が行えるのかを4つのレベルに分けて重要なことを解説。まず、個人レベルで重要なことを、多くの失敗作を生み出したスティーブ・ジョブズを例に紹介。知の探索には失敗がつきものなので、成功・失敗という単純な評価をしないという人事評価の見直しが重要だと訴えました。

次に、戦略レベルでは、異業種とコラボレーションするオープン・イノベーションや、最近ではコーポレート・ベンチャー・キャピタルのようなスタートアップ企業との交流が重要だと説明。そして、組織レベルでは、「ダイバーシティ(人材の多様化)」が重要だと説明。多くの企業では、ダイバーシティが目的化してしまっていることを問題視しました。
「女性や外国人など多様な方々が入って来れば、今までなかった知と知の組み合わせが起きる可能性が高まります。しかし、大切なのは経験や知見、考え方が多様化されることです。一人の人間が多様な経験をしていたら、その人の中で知と知の新しい組み合わせができます。これを『イントラパーソナル・ダイバーシティ』と呼びます」(入山氏)。
組織に多様な人材を入れることも重要だが、社員の一人ひとりが多様な経験・知見を持つことが何よりもイノベーションにつながると説明し、イントラパーソナル・ダイバーシティの例として、ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞した方の中から4名を紹介しました。

さらに、人脈レベルでは、「強い結びつきと弱い結びつき」という考え方が重要だと説明。
「情報を集めるために効率的なのは、弱い結びつきの方です。しかも、弱い結びつきは誰でも簡単に作ることができ、遠くに伸びやすいのです。これを『弱い結びつきの強さ』と呼び、多くの研究において、弱い人脈を多く持っている人の方が創造的な成果を生みやすいという結果が出ています」(入山氏)。

さらに、副業の解禁や週休三日制度などの働き方改革による知の探索の推進例を紹介。最後に、知の探索を進めるのに一番重要だけど、日本に一番足りないであろう「センスメイキング理論」を、アルプスで遭難したハンガリーの偵察部隊のエピソードを交え紹介しました。
「センスメイキング理論によると、こういう変化が激しい不確実性の高い世界で、一番やってはいけないことがあって、それは何かというと『正確な分析に基づいた将来予測』です」(入山氏)。
分析だけに頼っていると、イノベーションを阻害すると警告し、この不確実性の高い世界で重要なのは、「正確性」ではなく「納得性」であると説明。
「明確な将来のビジョンを語り、社員や投資家、取引先を納得させ、そういう方を巻き込んで前に進んで行くということが何よりも重要なのです」と主張して、講演を終えました。